熱中症対策義務化2年目の酷暑、現場の対策は「装備」から「運用」へ進む
ニュースの概要
日経クロステックは、記録的な暑さとなった今夏が、職場の熱中症対策が義務化されてから2年目にあたると伝えた。義務化後も、建設現場や工場などでは熱中症の発生が続いている。報道は、制度ができただけでは被害を十分に減らせず、現場ごとの実情に合った運用が問われる段階に入ったことを示している。対策機器の導入は広がったものの、暑さの感じ方や作業内容は現場ごとに異なる。そのため、一律の備えでは追いつかない場面も出てきた。本稿では、この報道を手がかりに、義務化2年目の課題と、企業が取るべき次の一手を整理する。
引用元: 酷暑日の夏、熱中症対策義務化2年目(日経クロステック(xTECH))
分析・見解
義務化の1年目は「備える」、2年目は「回す」段階に入った
義務化の1年目は、多くの企業にとって体制づくりの年だった。連絡先を決め、報告の流れを紙にまとめ、必要な物品をそろえた。いわば「型を作る」作業である。
しかし2年目は事情が違う。型があっても、暑い日に実際に回らなければ意味がない。たとえば、休憩の指示を出す人が現場に不在だったり、体調不良を言い出しにくい空気があったりすれば、書類上の体制は機能しない。制度の成否は、紙の上ではなく、真夏の午後二時の現場で決まる。
暑さ指数(WBGT)を測るだけでは足りない理由
暑さ指数(WBGT=気温、湿度、日射を合わせた暑さの目安)は、今や多くの現場で測られている。ところが、測っていることと、行動が変わることは別の話だ。
数値が基準を超えたとき、誰が何をするのかが決まっていなければ、計測器は飾りになる。さらに、現場の中でも日なたと日陰、屋根の下と鉄板の上では、体感が大きく違う。事務所前で測った値が、作業位置の暑さを表しているとは限らない。
実例を挙げると、同じ工場内でも、溶接作業の近くと出入口付近では、同じ時刻に数度の差が出ることがある。測る場所を作業位置に近づけ、複数の地点で見る工夫が、これからの標準になっていくだろう。
空調服や冷却機器は「個人差」を前提に選ぶ時代へ
空調服(服に取り付けた小型の扇風機で、体の表面に風を通す作業着)は、この数年で急速に普及した。冷却ベストや首元を冷やす機器も種類が増えている。
ただ、万能ではない。空調服は風通しの悪い場所や、湿度が非常に高い日には効果が落ちる。また、体格や汗のかき方、年齢によって、同じ機器でも楽になる度合いは変わる。
類似の事例は、冬の防寒対策にもある。防寒着は支給しても、動きにくいと感じた人が着なくなる。熱中症対策の機器も同じで、使いたくなる着心地でなければ、現場では外されてしまう。選ぶ段階で、複数の機種を試せる仕組みを持つことが重要だ。
独自の視点:「暑さに慣れる期間」を工程表に入れる
見落とされがちなのが、暑さへの慣れ、つまり暑熱順化(体が暑さに慣れて汗をかきやすくなる状態)である。体は、暑い環境に数日から二週間ほどかけて慣れていく。
熱中症の事故は、梅雨明け直後や、連休明けの初日に集中しやすい。これは、体がまだ暑さに慣れていないためだ。それにもかかわらず、工程表は暑さの条件を考えずに組まれることが多い。
対策として、新しく現場に入る人や休み明けの人には、最初の数日は作業量を減らす。これを工程表にあらかじめ書き込んでおく。機器を買い足すより安く、効果も大きい可能性がある。
ビジネスへの影響
対策費を「コスト」ではなく「止まらない力」として見直す
熱中症で一人が倒れると、その日の作業が止まるだけではない。救急対応、原因の確認、報告書の作成、他の作業員の動揺と、影響は広がる。重い場合は、労災の手続きや取引先への説明も必要になる。
一方で、空調服や冷却機器、休憩所の整備にかかる費用は、数万円から始められるものが多い。作業員一人あたりに直すと、事故一件の損失よりずっと小さい。経営者は、対策費を出費ではなく、工期と信用を守る保険として位置づけ直すとよい。予算を決める際は、過去一年の「暑さで止まった時間」を数えるところから始めたい。
来夏に向けて今から整えるべき三つの運用
第一に、今夏の記録を残すことである。いつ、どこで、誰が体調を崩しかけたかを、気づいた範囲で書き出す。これが来年の対策の元データになる。
第二に、現場の責任者に判断を任せる範囲を決めることだ。基準を超えたら作業を止めてよい、と明文化しておけば、現場は迷わない。上司の了解を待つ間に症状が進むことを避けられる。
第三に、取引先との契約や見積もりに、暑さによる工期の余裕を織り込むことだ。無理な納期を前提にすると、現場は対策を後回しにせざるをえない。発注側と受注側の双方が、暑さを条件として共有する流れが、少しずつ必要になる。
暑さ対策の需要は、新しい取引の入口にもなる
対策を整える動きは、機器メーカーや販売会社にとって追い風でもある。空調服、冷却用品、計測器、見守りの仕組みなど、関連する商品の幅は広い。
とはいえ、売り込む側にも工夫が要る。単に商品を並べるのではなく、現場の暑さの測り方から休憩の取り方までを、セットで提案できる企業が選ばれやすくなる。導入後の使い方まで寄り添う姿勢が、長い付き合いにつながる。