体感温度を2.2℃下げる布が示す、冷やす服の新常識
ニュースの概要
Stanford大学の研究チームが、プラスチックを土台にした低コストの冷却素材を開発した。この素材は二つの経路で体の熱を逃がす。一つは、汗が蒸発しやすい状態をつくること。もう一つは、体から出る赤外線を外へ通すことだ。綿の衣料と比べると、着る人の体感温度を約4°F、およそ2.2°C下げられる可能性が示された。電気で冷やす空調や、保冷剤を入れるベストとは違い、布そのものが熱を逃がす。冷やすための電力も、充電の手間もいらない。暑熱環境で働く人や、猛暑の街で暮らす人に向けた、実用に近い選択肢として関心を集めている。
引用元: Stanford発、体感温度を下げる低コスト冷却テキスタイル(The Daily Star)
分析・見解
汗と赤外線、熱を逃がす二つの出口を同時に開く
私たちの体は、熱を主に三つの方法で外へ出している。汗の蒸発、空気への熱伝わり、そして赤外線の放出だ。皮膚の表面温度はおよそ33度前後で、この温度の物体は目に見えない赤外線を絶えず出している。室温で安静にしている人の場合、体から逃げる熱の約半分は、この赤外線によるものとされる。
従来の衣料は、この赤外線を布が吸い取ってしまう。綿も合成繊維も、赤外線をほとんど通さない。つまり服を着た瞬間に、熱の出口の一つがふさがれていた。今回の素材は、可視光は通さず、赤外線だけを通す性質をもつ。見た目は普通の布なのに、熱だけが外へ抜ける。ここが従来の冷感素材との大きな違いである。
約2.2℃の差が、体感ではどれほど大きいのか
2.2℃という数字は、小さく見えるかもしれない。しかし暑さの現場では、この差が効く。たとえば、室温を2℃下げるには、オフィスの空調でも消費電力が1割前後増えるといわれる。それと同じ効果を、着るだけで得られるなら意味は大きい。
汗の量も変わる。体感温度が下がれば、発汗が減り、水分や塩分の損失が小さくなる。熱中症の危険が高まる境目は、体温がわずかに上がったあたりにある。だから2℃程度の余裕でも、判断を誤りにくい時間が延びる。
過去の冷感素材と何が違うのか
冷感をうたう衣料は、これまでも数多く出ている。接触冷感の生地は、触れた瞬間にひんやりする。しかし熱をため込めば、すぐにその効果は消える。吸汗速乾の生地は、汗を早く乾かすが、赤外線の出口は開けない。空調服のように小型ファンを付けるものは効果が高い一方、電池と重さの問題がある。
今回の素材は、電力を使わず、素材の性質だけで二つの出口を同時に開く点が新しい。ただし、まだ研究段階の数字である。洗濯を繰り返したときの耐久性や、肌ざわり、通気性の評価は今後の課題だ。プラスチックが土台という点も、マイクロプラスチックの流出や再資源化の観点から、慎重に見る必要がある。
空調の電力需要を静かに減らす可能性
世界的に、冷房の電力需要は伸び続けている。国際機関の推計では、2050年までに冷房用の電力は大きく増えるとされる。建物全体を冷やすのではなく、人を直接冷やす発想は、この需要を抑える有力な手段になる。
冷やす対象を空間から人へ移す。この視点は、衣料に限らない。座席、ヘルメット、テントなど、人に近い部材が同じ原理を使えば、効果は広がる。服が暑さ対策の主役になる時代が、現実味を帯びてきた。
ビジネスへの影響
屋外作業と物流の現場で、まず採用が進む
最初に価値が出るのは、建設、物流倉庫、農業、警備といった屋外や空調の効きにくい現場だろう。夏の熱中症対策は、法令でも事業者の責任が重くなっている。電池も充電も要らない冷却衣料は、現場の運用負担が小さい。導入の判断では、一着あたりの単価よりも、休憩回数の減少や作業の中断の減少で比べるとよい。
試験導入では、気温と湿度の記録、作業者の自己申告、休憩時間の三つを同じ条件で取る。これだけで、費用対効果の根拠が社内に残る。
衣料メーカーと小売は、耐久性の証明を先に求めるべき
メーカーにとっての焦点は、量産性と洗濯耐久である。研究室の数字がそのまま店頭に届くことは少ない。提携や素材調達を検討するなら、洗濯50回後の性能、肌ざわり、色の展開、リサイクル対応を条件に入れたい。
小売側は、効果を2.2℃という数字だけで宣伝しないことが大切だ。比較対象が綿であることを明記しないと、誤認の指摘を招く。空調服、冷却ベストなどと組み合わせる提案のほうが、実際の体験に近く、顧客満足も高まる。